スクラムジェットエンジンとは
より多くの人やものをより早く輸送しようとする場合、従来とは異なった方式の推進システムが必要となります。 スクラムジェットエンジン(SCramjet engine: Supersonic Combustion Ramjet Engine)は、高層大気中、マッハ5以上の極超音速と呼ばれる速度域で推力を得られるジェットエンジンで、次世代の超音速機やスペースプレーンのような宇宙往還機に利用できると考えられています。
スクラムジェットエンジンの原理
現在の航空機の推進機関として広く利用される通常のエンジンは羽根車を使って空気を吸い込み、高い圧力にしたのちに燃料を燃焼させエネルギーを得ていますが、このような方式では得られる速度に限界があります。
そのため、音の数倍の速さで高速飛行するためには入ってくる空気を急激に減速することで空気自身の力で自分の圧力を上げ、燃料を燃焼させることで推力を得るラムジェットというエンジンが必要となりますが、ラムジェットの中でもさらに高速域で作動するスクラムジェットエンジンにおいては、エンジン内部の空気の流れの速さをそれ程減速しないことでさらに速い速度での飛行を可能にしています。
スクラムジェットエンジンの課題
スクラムジェットエンジンでは、エンジン内部の流れが音速以上の状態において燃料を燃焼させなければなりません。この超音速流中で燃焼させることからSupersonic combustion RAM ジェットエンジンの名前が付けられています。ただし、超高速気流中で安定した燃焼を実現することは極めて難しく、この問題がスクラムジェットエンジン実用化に向けた最大の課題となっています。
研究内容及び実験装置
当研究室では本郷キャンパスにある超音速燃焼風洞を用いて実験を行っています。風洞にはスクラムジェットエンジン燃焼器を模擬したテストセクションがつないであり、主流全温や燃料の当量比を変化させたり、石英ガラス製の窓から光学測定を行ったりします。 主に炭化水素系燃料の適応を想定しており、燃料噴射条件などを変化させながら着火や保炎の特性を調べています。 また機体や燃焼器の再生冷却に炭化水素系燃料を用いると燃料が高温に熱せられて分解します。 そこで燃料加熱によって改質した燃料の成分を分析し、燃料改質がエンジンの燃焼特性にどのように影響するかなどの実験も行っています。
下の写真は実験に使用している超音速燃焼器になります。図の左側からエンジンの空気取り入れ口を通過した後の気流を模擬した、高温・高速の気流が燃焼器に流れ込んできます。 燃焼器の中にはキャビティと呼ばれる段差が設けられていることが特徴的で、このように意図的に燃焼室内部に段差を設けることで、一部の領域のみ気流の速度を落とすことで燃焼の安定化を図ります。 燃焼室上面には多数の圧力センサが設けられており、試験中の燃焼室内部の圧力測定を行うことで、光学計測と合わせて燃焼の状態を計測しています。
燃焼試験時
下の写真は燃焼試験中の燃焼器内部になります。キャビティの直前から燃料を主流に対して垂直方向に噴射しており、キャビティ付近において激しく反応している様子が確認できます。 このように、燃焼室内部に設けられたキャビティが燃焼の安定化に寄与していることが分かります。