火災安全性向上に向けた固体材料に対する重力影響の評価
国際宇宙ステーション(International Space Station, ISS)が建設され,宇宙飛行士が滞在するようになって以降,宇宙における有人活動はますます活発化し,今後もより多くの人が,より長く滞在する機会が増えていくと思われます.例えば,NASAは有人火星探索プロジェクトを進めていますし,SpaceXやOrbital Sciencesなどの民間企業などによっても宇宙ビジネス参入の動きが見られるようになりました.
有人宇宙活動において,人命を保護することは最優先の課題です.宇宙船は周りを宇宙に取り囲まれた極限閉鎖空間ですから,万一何かしらの原因で事故が起きてしまうと,それはすぐに人命に関わるような大事態になりかねません.その中でも特に懸念すべきは火災事故です.火災が起きると宇宙船内を煙が充満するだけでなく,生命維持装置等の重要機器も破損してしまうかもしれません.
このような火災事故を防ぐためには,防災基準の策定が必須です.実は,既にNASA独自の燃焼評価基準(NASA-STD-6001B)があるにはあるのですが,これは通常重力環境下で行われた試験を基に策定された基準で,宇宙船内の無重力環境とは,状況を異にします.詳しくは後述しますが,重力があると,自然対流が発生し,いくつかの異なった燃焼現象が見られるようになります.そこで,我々は航空機実験や小型落下塔を用いて燃焼現象に与える重力の影響を科学的に評価し,宇宙材料の最適な燃焼評価試験方法および国際基準の提案を目指します.
微小重力環境における可燃性混合気の点火実験
微小重力環境における点火現象の基礎的な知見を得るために,小型落下塔を用いた落下実験により微小重力場での可燃性混合気の点火実験を行っています.画像はDME(ジメチルエーテル)と空気の混合気に対し通常重力場と微小重力場の二条件で同程度のレーザーエネルギーを入射させた時の火炎核の様子を高速度カメラで撮影したものです.微小重力においては火炎核が上下に均等に成長していくのに対して,通常重力では自然対流に逆行する下部が十分に成長できていない様子が観察されました.この下部では消炎が起きているのですが,このことから,浮力による火炎核形状の崩れが火炎核の成長を妨げる効果を持っており,浮力の無い微小重力環境下では,その分,点火しやすい(最小点火エネルギーが小さい)ことが分かりました.
微小重力環境における導線被覆熱分解ガスの点火実験
通常重力場と微小重力場での導線被覆熱分解ガスの点火限界の違いを航空機実験により調査しています.画像は微小重力環境下において,導線被覆をヒーター加熱させて生じた熱分解ガスをレーザー点火させたときの様子です.この実験により,通常重力環境と比較して微小重力環境における限界酸素濃度・限界熱流束の低下,点火限界の拡大が確認されました.これには上述の可燃性混合気の点火実験の場合と同様に,火炎核の成長メカニズムが関係していると考えられます.