2018年8月5日

Ignition

 

 

概要

エンジンと聞くと私たちが思い浮かべるのは自動車やオートバイに多く用いられているガソリンエンジンだと思います.この種類のエンジンは燃料と空気の混合気をシリンダ内に(1)吸入,(2)圧縮,(3)点火・燃焼,(4)排気という4つの工程を通すことで燃料から仕事を取り出しています.このサイクルを開発者にちなんでオットーサイクルと呼び,その長い歴史の中で先人達がサイクルの高速化やエンジンの高出力化,小型化への努力を積み重ねた結果,現在の形に至っています. 前述したオットーサイクルに限らず,燃料から仕事を取り出すためには人類は広く燃焼現象を利用しています.しかしながらこの燃焼現象中では燃料への点火の成否にとどまらず,その後の火炎の伝播や環境負荷物質の生成に重大な影響を及ぼす現象が極めて短時間に,かつ相互に作用しながら生じており,未だ理解の深まっていない事柄が存在しています.また近年環境適合性への要求は世界的に高まっており,燃焼現象を利用する分野においては熱効率の向上と環境負荷物質の低減が急務となっています.これらを達成するには燃焼現象への理解を深め,新たな点火・燃焼技術の確立が必要となります. 本研究室では前述の背景を受け,点火・燃焼を中心に,近年世界的に高まっている環境適合性をテーマに研究を行っています.具体的には燃焼時の二酸化炭素排出がない,もしくは比較的少ない水素やメタン,バイオマス起因のガスを使用した燃焼や,高排気再循環雰囲気及び希薄混合気中での燃焼の研究を行い,点火特性の改善等を通じて熱効率の向上と環境負荷物質の低減を実現します.

マイクロ波プラズマアシスト点火

ガソリンエンジンの燃焼においては、近年の環境負荷の抑制手法として希薄条件下での燃焼や排気再循環(EGR)による燃焼温度の低下が求められていますが、このような希薄かつ希釈された条件下で安定的な点火を実現することは極めて困難です。 そこで、当研究室では火花放電による点火過程の火炎に対してマイクロ波を照射することで、通常の火花放電では点火できない条件下で点火を実現する”マイクロ波プラズマアシスト点火”を研究しています。 特にマイクロ波の照射に関する諸条件が点火過程に及ぼす影響を実験・数値解析の両面から研究しています。

マイクロ波照射が点火過程に及ぼす影響。上段は通常の火花点火で途中で消炎していることがわかる。下段はマイクロ波照射下での実験であり、消炎せず火炎が成長していることが確認できた。

点火に関する数値解析

当研究室では、実験と合わせて数値解析により点火に関する研究を行っています。実験的に計測することが極めて困難な物理量の推定や、各種パラメータが点火過程に及ぼす影響を数値シミュレーションにより研究しています。 点火時の物理現象は、定常燃焼時の現象とは大きく異なるため、数値シミュレーションにおいても様々なノウハウが存在し、汎用コードでの計算は極めて困難です。 そこで、当研究室では独自に開発した計算手法を用いて点火時の詳細な物理現象の解明に取り組んでいます。

火花点火の数値解析例(中谷准教授)

レーザブレイクダウン点火

多くのガソリンエンジンでは電気火花を用いて点火を行っていますが,本研究室では電気火花の代わりにレーザーを用いることについて研究しています. レーザー光を凸レンズで集光すると,焦点において高温のプラズマが発生し点火します.電気火花点火の場合火炎がシリンダの壁面付近から広がり始めるため,壁面に熱が逃げるという損失がある一方, レーザーを用いた点火の場合焦点を変えることで点火位置を任意に設定できる,といったメリットがあります. 本研究の課題としては,点火に必要なエネルギーを如何にして小さくするかの検証や火炎がどのように発達するかの考察が挙げられます.

レーザブレイクダウンによる点火に関しては、現在までに数多くの研究がなされてきましたが、当研究室では至近距離の複数の領域でブレイクダウンを発生させる”近接多点レーザブレイクダウン点火”に着目して研究を行っています。 近接した複数個所で同時に点火過程が進行することの影響を、点火に要するエネルギーや点火時の物理現象の変化などの観点から研究しています。

乱流場における点火

上述したように,環境適合型内燃機関開発の一助となることを目的として,当研究室では希薄予混合気中静止場での点火過程について調査してきました.一方で,実機で生じるような乱流は燃焼速度や点火挙動に対して大きく影響してきます.そこで,我々はプロペラによって乱流を発生させることが可能な乱流装置を開発し,等方性乱流場におけるレーザーブレイクダウン点火・火花点火挙動の観察を行っています.

乱流燃焼器

高乱流場における火炎核成長の様子